【航空部史上1番幸せな日】青山Discus移行・同期の1stソロ
入部してから、ずっと憧れの存在だった青山Discus。
世界選手権にも出場するような有能な機体。
先輩や教官が「Discusはいいよ~、全然違う!」と皆口を揃えて言ってるのを何度も聞いて
1年生の頃から「いつかあのDiscusに乗る事」が私の夢だった。
アメリカでライセンスを取得して、戻ってきてから日本の資格に書き換え。
そこからも苦労は絶えなかった。
なかなか滞空出来ない苦しさ、求められる操縦レベルの高さ。
同期3人が乗り回す姿を見て、乗りたいと思い続けながらも日々は過ぎていった。
同期のはると「卒業までに絶対乗ろうね」何度も言い続けていた。
Discus移行の日は突然にやってきた。
はるがDiscus移行することが決まって嬉しい気持ちになっていたら、
私もピストから青山23で搭乗するよう指示が出る。
これは絶対Discusチェックだ・・・と、かかるプレッシャーは半端では無かった。
丁寧に丁寧に操縦して着陸する。上手く決まった。その後深田さんに報告しに行くと「よし、Discus乗れ!」と言われた。「つ、ついに・・・!」心が震えた。
まさやにシート慣熟をしてもらった後、ほんの少し雨がぽつりぽつりと降る中で出発の時はやってくる。
かなが「るるちゃんの翼端やりたい」と言ってくれて、出発前まではるとうっちーが側にいてくれた。
キャノピーを閉める。もう機内には自分だけだ。
「次にあげるのは、ファーストDiscusです」ようちゃんの無線が聞こえてくる。
緊張で心が締め付けられる。
「楽しもう、とにかく安全に帰って来よう」
そう自分に言い聞かせ、後輩からもらった胸元のお守りを優しく撫でた。
張り合わせ。緊張を打ち破るかの如く、機体がスッと引かれる。
「出発!」無線が響く。
短い地上滑走の後に機体が宙に浮く。もうここからは自分で操縦するしかない。
恐る恐る操縦桿を引いていく。
安全高度を超えて、どんどん上昇する。
ふっと横を見ると、そこには色鮮やかなオレンジのウィングレットが目に飛び込んできた。
この堂々たるウィングレットの姿が頭から忘れられない。
「私、本当にDiscusに乗っているんだ」と実感した瞬間だった。
「ウィンチパワーカットしまーす!」
無線が聞こえて、丁寧に滑空姿勢に入れ離脱する。
索が切り離され、もう自分だけで空を飛んでいた。
音の静かさに驚かされ、第1旋回をしようと少し手を動かした瞬間に機体が動き始めた。
その驚愕のスピードに衝撃を受けた。
まるで魔法がかけられているかのようだった。
第2旋回を終え、機体はぐんぐんと前に進む。ランウェイの方を見る。
ひらけたキャノピー。そこから見える、ランウェイは今まで見た景色とは別物だった。
今までに300回以上空から見下ろした妻沼のランウェイな筈なのに、何かが違った。
ピストの方を見た瞬間に、送り出してくれた深田さんと同期の事が思い浮かんだ。
言葉では形容しがたいが、あの時見降ろしたランウェイにはあたたかさが詰まっていた。
そんないつもとは何かが違う特別なフライトはあっという間だった。
楽しみながら、緊張しながらも、何とか無事に着陸した。
停止してキャノピーをあけると、「おかえり~!!!」という声と走ってくる同期の姿が私を包み込んだ。
機体から降りる時、私の足は震えていた。
乗せてくれた深田コーチに搭乗終了の報告に行くと、「よくやった」と右手を差し出してくれた。
握り返したその手は優しく、あったかくて。嬉しくて嬉しくて深田さんに抱きついた。
4年間、上手く飛べない時もあって、そのたびに悔しい思いを沢山してきた。
でもここまで頑張ってきてよかった。そう思えた瞬間だった。
喜んでいる間はつかの間。
「るるさんおめでとうございます!でも降りてきて早速何ですが次のクールでリトやって欲しいです!」とピストからお願いされる。
急いではるとDiscusの前で写真を撮る。
ずっと同じように苦しみながらも頑張ってきたはると一緒にDiscus移行できて、肩を組んで写真をとれたのはこの上ない幸せだった。
もうこんな嬉しい時は無いのではないかと思い込んでいたが、それを凌駕する事が起こる。
リトリブで索を1回曳いてウィンチ側にいると、「次の曳航はダミーでお願いします」という無線がハンディから聞こえてきた。ウィンチマンが「了解。ちなみにどなたですか」と聞く。
「4年のうっちーさんです」
!!!!心の中でドキドキが高まる。
頼む、頼む、ダミーをクリアしてソロ出てくれ。そう願う。
そしてうっちーのダミーが行われ、1クールが同時に終了する。
結果が気になりながらも、私は索をひかなければならない。
私までドキドキしながら索をひいているランウェイ中盤でのことだった。
ハンディから聞こえてくる
「ウィンチ、ピスト。次の2索目はうっちーさんのソロです」
「うっちー!!!!」喜びのあまりリトを運転しながら心の中叫んでいた。
そしてすかさずハンディをとった。
私「ピスト、リト。2年生のリトマンって搭乗近いですか?」
ピスト「近いです」
私「ち、ちなみに他のリトマンはどうですか?」
ピスト「次の1発目法政乗ります」
私「ぎゃーっ」
もう心の叫びは本物の声へと化していた。
正直うっちーのファーストソロを近くで送り出したかったから悔しかった。
でも仕事は全うせねば、と気持ちを切り替える。
索を引ききってリトを降りると、2年生のリトマンが「るるさん変わります!」と走ってきてくれた。
もう感謝の気持ちしかなかった。
「ありがとう!!」言い、2番セットされているAGへダッシュした。
AGの側に立つうっちーの目には既に涙が浮かんでいた。
「うっちー、泣くのはまだ早いよ!」そう元気に声をかけながらも、正直私の目からも涙は出ていた。
うっちーが乗り込む。縛帯を閉めてキャノピーを閉める。
その表情からは緊張が痛いほどに伝わってきた。
「大丈夫だからね、いつも通り!楽しんできてね!」と励ます。
「レリーズオープン、クローズ」といいレリーズをつける。
自分がひいてきた索で、レリーズを機体とつないで、同期のファーストソロがあがる。こんなにも航空部の仕事をしていて良かったと思えた時は無かった。
機体にレリーズがついたのをしっかりと確認して立ち上がる。
「いってらっしゃい!」そう声をかけ、機体から離れた。
そして出発。機体は離陸し、あっという間に上まで上がる。
「りだーつ!」グランドにいるクルー全員の声と視線が1つになっていた。
「離脱高度430レフトターン」その声はとても落ち着いていた。
旋回している様子を見守る。
緊張していると不思議なものでフライト時間はあっという間に過ぎて、着陸の時。
進入している機体を見守りながら、「いい感じ、そのまま、そのまま」と無意識に声が出てしまう。
うっちーは綺麗にフレアをかけて着陸した。皆で機体のもとへ走って駆け寄る。
うっちーは機体から降りて、「よかったぁあ・・・、生きてる」と言葉を漏らし涙とほっとした笑顔で一杯だった。
機体をショルダーして、教官と話し終わってピストの方にいたうっちーをぎゅっとする。
抱き合いながら、2人揃ってボロボロと涙がこぼれていた。
長年の夢である青山Discus移行は死ぬ程嬉しかった。
しかし、それ以上に同期のうっちーのファーストソロは、自分の事よりも何倍も嬉しかった。
この4年間の中で1番に幸せな日となった。
4年間フライトも仕事も幹部も一筋縄ではいかなかった。忙しくて、大変で、悲しい時もあって。
でもその辛い事を乗り越えて頑張ってきてよかった、と心の底から思えた。
もう残された航空部人生は残り3ヶ月。3合宿。
毎日晴れたとしても訓練出来る日数は12日。
複座・単座含めても空を飛べるのは残り10フライトか、もしかしたら5フライトも無いのかもしれない。
後悔のないように、大切に飛行する。
このメンバーと一緒にいれる残された合宿を120%楽しむ!
2019.12.26